天文学者のいちにち(かつての若者の激太り紀行)

 

(これは今からウン十年前 私が20代のころのおはなしです)

 

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大学院生のころ 観測シフト(交代で観測当番がありました)で

ニュージーランドと日本を行き来していました。

 

ニュージーランドは 南半球の

南北2つの島からなる おだやかな国です。

人口は 2020年で約500万人ですから

北海道や福岡とおなじくらい、でしょうか。

 

私が滞在していたのは 南島の中央あたり

テカポ湖のほとりの小さな山(マウント・ジョン)にある

マウント・ジョン天文台

というところです。

 

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日本と季節が逆なので

日本の夏に出かければ 真冬。

夜は長く 天気が良ければ14時間ほど観測ができ(てしまい)ます。

 

 


(上の古い写真は増量前の平常状態です)

 

その頃の 私の一日はこうでした。

 

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まず起床は 昼すぎです。

遅いときは 午後3時ころ。

前の日の観測が 朝方まであるので どうしてもズレてしまうのです。

 

パンと野菜、コーヒーの朝食をすませたら

宿舎から徒歩3分ほどの観測部屋

(望遠鏡のあるドームに併設されています)

に行って さっそく観測準備にかかります。

 

準備ができたら いったん宿舎にもどって

軽食をとります。

長い夜を乗り切るために しっかり栄養をとります。

 

食べたら 観測部屋に行き

午後6時には 観測開始です。

 

今ではほとんど自動の観測も

当時は 半手動。

望遠鏡のカバーをはずすのも

ポインティング(おおまかに動かす)も

随時 ドームを動かす

(長細いスリットの窓に望遠鏡が入るようにします)のも

ぜんぶ手動でした。

 

順調にはじまったら お腹がすいてきますから

宿舎にもどって ようやく昼食(?)。

 

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深夜に 国際電話がかかってくることもあります。

「〇時〇分〇秒に 空の〇〇(座標といいます)で

突発天体(急に明るくなる天体)が見つかったから

至急、あなたのところも観測してください」

というお願いの電話です。

そんな日は 予定の観測をとめて

臨時の観測をします。

 

さて、落ち着いていれば 深夜に 夕食(?)です。

本当のディナーなので

ちゃんと お肉をやいたり野菜をいためたりして

がっつり作って食します

(すべて自炊です)。

 

日付がかわっても まだまだ観測はつづきます。

観測部屋にもちこんだ おやつ(ティムタム、という超甘いお菓子が大好物)

でなんとかもちこたえます。

 

空が白んでくるのは 遅いときで

朝6時ころだったでしょうか。

観測の〆(いろいろあるのです)を手順通りにやって

ドームの窓を閉め セットポジションにもどし

望遠鏡のカバーをして セットポジションにもどし

データの保存を確認して

電子機器の電源を落として

ようやく 宿舎へもどります。

まだ若いとはいえ、この頃にはだいぶヨレヨレになっています。

 

朝7時ころ テカポ湖が赤紫色に輝く日があります。

それを眺めつつ 仕事おわりの晩酌をし

朝8時すぎに就寝・・・

 

 

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ずいぶんと ハードなような 優雅なような

観測生活です。

 

そうして、1か月半の滞在のあと

真夏の日本に帰国して体重計にのると

10kg増量・・・(そりゃそうなりますね)。

 

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若いから できたんだろうなあ。

 

50代になった今 なつかしい気持ちで

その頃を思い出します。